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Le 26/09/2024
「──ここが姫の御居間じゃ。我が嫡女の住まいとしては少々手狭ではあるが、どうじゃ濃、日々を過ごすには十分な造りであろう?」
「ええ、ほんに。どこを見ても美しゅうございます」
濃姫は室内を見渡しながら、満ち足りたような表情で頷いた。
十二畳からなる御居間は、西と南から光が取り入れられるようになっていて明るく、
六畳ずつに分かれた上座と下座をてる襖は、金泥の地に桜花、撫子、楓、萩を描いた春秋尽くしで、
透彫のには、鶴に若松菱が添えて彫られた上品な仕上がりである。植髮
襖と同じ意匠の床の間に、金砂子の小襖を用いた袋棚、違い棚には黄金の香炉や、高価な蒔絵の書道具などがきちんと並べられていた。
「居間の隣には次の間、東には台所を兼ねた土間と、最奥には湯殿も設けてある。どれも普通より手狭じゃがのう」
「いいえ、十分です。それだけあれば、不自由なく日々の生活を送ることが叶いまする」
「もっと広さを取れれば良かったのじゃが、この御座所を隠す為の樹々に、思いの場所を食われてしもうたわ」
「それも姫の為とあらば致し方ございませぬ。 ……それよりも殿」
「ん?」
「有り難う存じまする。かように美しい住まいを姫の為にご下されて」
濃姫は微笑みながら、ゆるやかに頭を下げた。
「何じゃ、先程まで気に入りの池を埋められて、不服そうな顔をしておったのに」
「まぁ、不服そうな顔などしておりませぬ。ただ…その少し、本当に無くなったのか否かが気になっただけで…」
「本当か?」
「ほ、本当にございます! それに私は、京で殿からこのお話を伺った時から、私の御座所の裏に姫の住まいを普請する旨には、
大いに賛成でございましたもの。実際に、かように立派な座所が出来上がったとあっては、池などに未練はございませぬ」
濃姫は清々しい思いで言うと
「そもそも私にとって城の水辺は、心を癒し、慰めてくれるものでした。なれど今の私には、姫がおりまする。姫が…」
「姫が今のそなたにとっての癒しであり、慰めじゃと──そういうことか?」
信長に告げられて、濃姫はって「はい」と頷いた。
「ですからもう、場所や物に頼る必要はないのです。この城の中に、姫と、姫が住まうこの隠れ御殿があるだけで、私は本望にございまする」
「──左様か」
嬉しそうに双眼を細めながら、屈託なく語る妻の面差しを見て、信長は静かに微笑んだ。
お濃も随分と母親の顔になってきた…。
信長は沁々とそう思っていた。
上手くは言えないが、雰囲気や気合いのようなものの中に、包むような暖かさを感じるのだ。
姫ことを話す時は特にそれが強く表れている。
これが世に言う母性というものなのだろうか?
女人は赤子を一人産み落としただけで、こうもがらりと変わってしまうものなのだろうか?
男には到底解らないことだと、信長は静かな微笑から一転、自嘲気味な笑みをその満面に広げた。
「…如何なされました?左様にお笑いになって」
「いや、何でもない。 そなたがそのように無欲なおなごになったのも、産まれた姫のおかげじゃなと、沁々思うておったのよ」
信長が言うと、濃姫は刹那的に目を瞬くなり、ふるふると首を横に振った。
「無欲など飛んでもない。私には望みがまだ幾つもございまする」
「…なれど、先ほど言うておったではないか。この城に、姫と、姫の御殿があるだけで本望じゃと」
すると濃姫はにっこり笑って
「その話はその話にございます。人は生ある限り、欲望からは切り離せぬもの。一つのものが手に入れば、また別のものが欲しゅうなるものです」
「では、まだ何か欲しいものがあると申すのか?」
Le 12/08/2024
「止めよ! ───さあ、どうじゃ、真のことを申す気になったか?」
腰元たちの手を休ませ、低く項垂(うなだ)れているお慈に問いかけた。
お慈は痛みからか言葉を発しなかったが、その項垂れた頭を力なく上げると、機械的に左右に振った。
何と、強情な女──。
報春院はきりきりと目頭を吊り上げ
「続けよ!! この者が口を割るまで続けるのじゃ!」
怒りに任せるように、再度笞打ちを命じた。https://networkustad.co.uk/the-best-timing-and-frequency-for-getting-botox/
「──お待ち下さいませ!」
その時、横手に伸びる廊下の奥から、濃姫の凛とした声が響いてきた。
「義母上様、どうか暫し…暫しお待ち下さいませ!」
背後に三保野とお菜津を従えた濃姫が、報春院の居る縁台へと足早に歩み寄って来る。
正室の訪れに、腰元たちは勿論、千代山や側室たちも一斉に平伏の姿勢をとった。
報春院だけはふてぶてしく頭をそびやかしたまま
「わざわざこのような所まで、いったい何用です?」
細い目で嫁の姿を見やった。
「義母上様、お慈殿は仮にも殿のお側女にございます。左様な者に、殿のお許しなく笞を打つなど、
本来ならばあってはならぬこと。かような理不尽な所業は、今すぐお止め下さいませ!」
「何が理不尽なものか! そなた様とて存じておろう?この者に謀反の疑いがあるという話を」
「無論…、よう存じ上げておりまする。なれど、それについてはまだ確かな証拠がございませぬ故」
「何を、証拠ならばあるではないか。 坂殿らが、お慈殿に脅され、美濃への寝返りを迫られたという確かな証拠が」
「左様ではございますが、各々によってお慈殿から聞かされた話も違い、未だ判然とせぬ部分もございます故」
報春院はハンッと鼻で笑った。
「だから何だと言うのじゃ!? 少なくとも、坂殿とお澄殿が、この者から謀反の話を持ちかけられたというのは、
紛れもない事実。この二人の証言だけでも、十分にお慈殿を罪に問い、その身に笞を打つだけの理由があるわ!」
「なれどそれは…」
「そもそも、そなた様が左様な手ぬるい判断ばかりを下しておる故、側室らも不審に思い、わらわに処罰するよう訴えて来たのではないか!」
報春院の少々事実とは異なる話に、側室らは「え…」となる。
しかし状況が状況である為、彼女たちは立場を弁(わきま)えて、口から出かかった反論の言葉をぐっと呑み込んだ。
濃姫は俯き、暫し考え込むと
「分かりました──。ならば私が、お慈殿を裁きまする」
鎌首を上げ、はっきりと姑に宣言した。
「詮議の上、しかとこの者の処分を決めます故、どうかお慈殿をこちらへお引き渡し下さいませ」
「この者の身柄を、そなた様に預けよと申されるのか?」
「はい。私がお慈殿を裁くことが義母上様の、ひいては皆の望みなのでございますれば」
「…じゃがのう…」
もう少しで口を割りそうなお慈を、このまま濃姫に引き渡して良いものかと、報春院は少なからずの躊躇(ためら)いを見せた。
「側室の監督は、殿の正室たる私のお役目にございます。どうか、お慈殿のご処分については、私にお任せ下さいませ」
濃姫が頷くように頭を垂れると
「そうなさっては如何でしょう? 奥には奥の秩序がございます。一介の側女ごときの為に、大方様がお手を汚される必要はないかと」
千代山がさりげなく口添えした。
報春院は数秒の間、悩ましげな表情を浮かべながら黙していたが、その心は既に決まっているようだった。
「──相分かった。なれど、抜かりなく、厳しゅう処罰致すのですぞ」
「分かっておりまする。“ 真の罪人 ” を、しかと断罪致す所存にございます」
Le 04/08/2024
「信勝殿が死んだなど、再び謀反を企てたなど───左様なことが信じられるものか!」
報春院は両肩をわなわなと震わせながら、射抜くような鋭い眼光を濃姫の頭上に向けると
「………もしや、そなたが謀ったのではあるまいな?」
「え…」
「そなたが信長殿を言い含め、信勝殿を殺めるように促したのではないか?」
思わぬ発言に、濃姫は狼狽えがちに首を横に振った。https://ventsmagazine.com/2024/07/26/botox-price-guide-how-much-should-you-pay/
「そのようなことは決して──」
「ないとは言わせぬ! 私に、信長殿が大病じゃなどと偽りを申し、信勝殿が見舞いに行くよう説得して欲しいと頼み込んで来たのは、誰あろうそなた様ではないか!?」
「それは、全て殿のご命令に従ごうたまでの事にて…」
「嘘じゃ! 万歩譲って、再度の謀反の件が事実であったとしても、兄である信長殿が、
実弟である信勝殿を、弁明の余地すらも与えずに殺めたなど、まずもって考えられぬ話じゃ!」
「義母上様。しかしながらそれは──」
「黙りゃ!」
姫の反論を封じるように、報春院はキッと相手を睨(ね)め付けた。
「お濃殿、そなた様の腹は読めておる。信勝殿を亡きものにすることで、信長殿、ひいては己の立場を磐石なものにしたかったのであろう!?
内乱により実父殿が討死し、縁戚の明智一族も悉く果てた今、そなた様が身を置き、重きを成せるのはこの織田家の奥をおいて他にはない。
今 信長殿に死なれては剣呑と思うたそなたは、脅威である信勝殿を始末するよう信長殿を説き伏せ、己の権勢を少しでも長ごう保持しようと企んだのであろう!?」
あまりの言いがかりに濃姫は驚きを通り越して唖然となった。
「そ、そのようなこと、あろうはずがございませぬ!
義母上様に偽りを申し上げたことは、まことに申し訳なき限りにございまするが、
私が殿に信勝殿を殺めるよう説いたなど……左様なことは天に誓ってございませぬ!」
「美濃の間者であったそなたの言葉など信じられるものか!」
信勝の死という受け止め切れぬ事実を聞かされ、報春院は完全に錯乱していた。
「あの子を返せ…、信勝殿を返してくりゃれ!!」
報春院は凄まじい勢いで濃姫の前に走り寄ると、その胸ぐらを掴んで、思いっきりに前後に振った。
「ひ、姫様!」
「大方様!おやめ下さいませ!」
控えていた三保野ら侍女たちは慌てて二人の間に割って入り、報春院を引き剥がしにかかった。
「邪魔を致すでないッ!!」
報春院は侍女たちの手を振り払うと、怒りが治まらないのか
「鬼じゃ!そなたは鬼じゃぁ!!!」
纏っていた打掛を素早く脱ぎ、それを濃姫の身体にバンッ!バンッ!と激しく打ち付けた。
「……ッ」
濃姫は為す術なく、片腕で顔の辺りを庇いながら、姑の暴行に堪え続けていた。
「───何とまあ、随分と騒々しゅうございますなぁ」
ふいに座敷の外から、聞き慣れた男の声が響くや否や、報春院はぴたりとその手を止めた。
一同が声の方に目を向けると、白い着流し姿の信長が、座敷のとっつきに昂然と立ち竦んでいた。
「……殿」
濃姫は現れた夫の面差しを静かに認め、三保野ら侍女たちは慌ててその場に平伏してゆく。
信長はそのままスタスタと濃姫の側へ歩み寄ると、その前で腰を屈めて
「濃、大事ないか?」
と、優しく姫の上半身を抱き起こした。
「…はい…、大事ございませぬ」
Le 04/08/2024
お市は躊躇いがちに母の顔を見上げる。
「義母上様、構いませぬか?」
濃姫が訊くと、報春院はふっと肩で息を吐(つ)き、致し方ないという表情をして
「お行儀良く頂戴するのですよ」
と小さくお市に告げた。
「お菜津。お市様を奥の部屋にお連れし、お菓子を差し上げよ」眼霜推薦2024|25款平價+專櫃抗老保濕眼霜測試!去黑眼圈淡紋
「承知致しました」
姫の背後に三保野と共に控えていたお菜津は「ささ、姫様こちらへ」と、お市を連れて速やかに座敷から出て行った。
二人が去って行くのを見送ると
「それで、いったい何なのです? わざわざ市を遠ざけるとは。子供には聞かせられぬような、何か重用な話でもあるのですか?」
報春院は全てお見通しだと言わんばかりの口調で訊ねた。
「こちらの意を察していただき、まことに有り難う存じまする」
「そなた様が私と二人きりになろうとする時は、何か飛んでもない話を私に聞かせようとする前兆のようなものじゃからな」
「畏れ入り奉ります」
「して、この信長殿の大事の折に、私にいったいどのような報事(しらせごと)があるというのです?」
「……これより義母上様にお聞かせ致すお話は、殿と、そして信勝殿のことにございます」
「信長殿だけでなく、信勝殿も?」
濃姫は深く頷くと
「まことに憚りながら…、信勝殿におかれましては、尾張上四郡の守護代であらせられる岩倉城の信安様と通じて、
殿の直轄領である篠木三郷を奪い取ろうと策略を企て、再び殿に、ご謀反の意を示された由にございます」
平伏の姿勢を取りつつ、一気に申し上げた。
その突然の報告に、報春院は愕然となる。
「あの子が…、信勝殿が再び謀反を……謀反を企てたとな!?」
「左様にございます」
「う、嘘じゃそのようなこと。有り得ぬ……信勝殿に限って、そのようなこと有り得ぬわッ」
「嘘ではございませぬ。謀反の話を信勝殿より伺った柴田殿が、内々に殿へご報告下されたのです」
「し…柴田殿が!?」
「信勝殿が二度と間違いを繰り返されぬよう、あのお方なりに御主君を諌めようとなされたのでございましょう」
「………」
「一度は義母上様のお取り成しによって許された罪なれど、その大恩を忘れ、再び謀反を企てるなど言語道断の所業。
殿は悩みに悩み抜かれた末、とうとう信勝殿を始末なされる旨をご決意なされたのでございます」
その話を聞き、報春院は思わず耳を疑った。
「…始末…。今、始末と申されたか!?」
「はい。殿にとっては、まさに苦渋の決断であったことにございましょう」
「で、では、まさか……信勝殿は…」
「殿は自らを大病と偽って、信勝殿をこの清洲城へ誘(おび)き寄せると、東櫓の天守にて──」
濃姫は思わず言い淀んだが、やがて意を決して
「河尻殿、青具殿に命じられ御成敗あそばされました」
と一息に告げた。
忽(たちま)ち報春院の面差しから血の気が引き、顔面蒼白となる。
一瞬 我を忘れたように茫然としていたが、やおらハッなって双眼を見開くと
「そんな馬鹿な……。信勝殿が、あの子が死んだと、そう申すのか!?」
見咎めるような眼で姫を凝視した。
「…はい」
「再度謀反を企てた咎により、信長殿がその命を奪うたと!?」
「…左様にございます」
濃姫が悲痛な面持ちで頭を垂れると、報春院は怒りの形相で立ち上がった。
Le 04/08/2024
やがて信勝の全身から力が抜けると、前後の刀が引き抜かれ、彼の身はドッと音を立てて床の上に崩れ落ちた。
河尻は信勝の首筋に手をあてがい、その生死を確認すると
「──急ぎ、殿にご報告を」
次の間の外に身を潜めていた恒興に、抑揚なく告げた。
雨の降り頻る憂鬱な空を、信長は御殿の縁に座して、何とも暗澹(あんたん)とした面持ちで眺めていた。
針のように細かく降る雨の向こうに、うっすらと北櫓が見える。
信長はそれを灰色の瞳で見つめながら、寝息の如く静かな溜息を漏らした。
そこへ「──殿」と、衣擦れの音を立てつつ、濃姫が歩み寄って来た。
信長は虚ろな目でやって来た妻を一瞥する。保濕精華推薦2024 | 編輯實測8款好用保濕精華 冠軍清爽快吸收
「……何用じゃ?」
「お方々が櫓の方から戻って参られたと伺いましたので」
「…信勝の末路を伺いに参ったのか?」
濃姫は深刻そうな表情で、ゆっくりと頷いた。
信長はその虚ろな目を再び庭先に戻すと
「 “万事、滞りなく相成り候” それが、恒興の報じゃ」
無感動に呟いた。
「津々木某は先に櫓の中に潜んでいた青具の手によって斬殺。信勝も、同じく最上部にて潜んでいた河尻と、後から駆け付けた青具両名の手に落ちた」
「……左様にございますか」
「出来れば信勝には、武士らしく自害の道を選ばせてやりたかったが、
突然のことで狼狽したのであろう、信勝の抵抗が激しく、自害を促す暇もなかったそうじゃ。
そんな信勝が、最後に残した言葉は『兄上』であったそうな。……ほんに皮肉なものよのう」
信長の目元に、心労を思わせるような深い皺が寄った。
濃姫は返す言葉もなく、ただ黙って夫の横顔を眺めている。
「ひどい男じゃと思うておるであろう? 同じ母から生まれし実の弟を、何故手にかける必要があったのかと。
なれど…致し方なかったのだ。あやつは儂が与えてやった恩を、仇で返そうと致したのじゃ。
どうして二度も謀反を起こそうとする者に、更なる情けなどかけられようか」
「───」
「今ひと度 目を瞑(つむ)ってやっても、あやつはまた謀反を企てるであろう。それを望む臣下と、それを決断へと導く、信勝の心の弱さがなくならぬ限りは」
「…殿…」
「今川がいつこの尾張に攻め込んで来るか分からぬ時分に、かつての美濃のように内乱を引き起し、国力を弱める訳にはいかぬのじゃ。
不要な芽は、見つけ次第摘み取らねばならぬ。……それが例え、血を分けた親兄弟であっても」
何かに耐えるように信長はグッと奥歯を噛み締めると
「…信勝。以前は、賢く、善良で、ほんに絵に描いたような良き弟であったのに………何故……何故このようなことになってしまったのであろうのう」
沈痛な面持ちで呟き、そして静かに項垂(うなだ)れた。
そんな儚く、萎れ切ったような信長の姿を目にし、濃姫は思わず居たたまれない思いになった。
この日の前日、ようやく信長の口から事のあらましを聞かせられた濃姫は、正直 戸惑いの色を隠せなかった。
信勝の再度の謀反画策もそうだが、そんな彼を騙し討ちにしようという、夫の密かな策略に、姫はどうしても納得が出来なかったのだ。
何せ相手は実の弟。
本当に命を奪う必要があるのか?
まだ話し合いの機会は残されているのではないか?と、
Le 04/08/2024
「病の影響故か、僅かな光でもお気に障られるらしく、殿のご命令で極力灯を遠ざけておりまする。
前が見え辛ろうてご不便でございましょうが、ご辛抱下さいませ」
歩を進めつつ、恒興は有り体に説明した。
「兄上はこの櫓のどこにおいでなのじゃ?」
「最上部におわしまする」
言っていると、一行の前に上へと続く階段が現れた。
「些か段が急になっております故、お足元にはくれぐれもお気をつけ下さいませ」
そう注意を促すと、恒興は慣れている様子で、足元も見ずに上へ上へと登ってゆく。
信勝も横の壁を手すり代わりにしながら、蔵人と共にその急階段を登っていった。
やがて、一行が最上部へと続く最後の階段を登ろうとした時 香港打Botox邊間好?我適合Botox去皺瘦面嗎?一文了解Botox價錢、功效及風險
「 !? 」
急に蔵人が足を止め、険しい表情をしながら背後にサッと目をやった。
「蔵人、如何した?」
「いえ。ただ…、今何か、某の後ろを人のような黒い影が、通り過ぎていったような気配が」
「人の影、とな?」
「それはお気のせいでございましょう。殿の他に、今ここには誰もおりませぬぞ」
まさか重病の信長が床から抜け出して歩き回っている訳もなし、と恒興が冗談めかして告げると
「少々気にかかります故、辺りを確認して参りまする。信勝様は先に信長様の所へ」
蔵人はそう言って信勝を見送ると、腰の刀に手を置きながら、慎重に周囲を見回った。
ガタ…
すると、古い長持ちが積み上げられている南側の一角から微かな物音が響いた。
蔵人は素早く踵を返すと、刀を抜く姿勢を整えながら、慎重に慎重にその一角へと進んでいった。
積み上げられた長持ちと壁面の間に、大人一人が身を隠せそうな隙間が確認出来る。
『 あそこか… 』
蔵人はゆっくりと鞘から刀を引き抜くと、忍び足でその隙間に近付き
「何奴ッ──!!?」
勢いよく、刀の切っ先をその隙間に振り向けた。
すると奥で、小さな黒い影が蠢(うごめ)き、やがてそれはサーッと風のように蔵人の足元をすり抜けていった。
蔵人が慌てて、その影を目で追うと、格子の窓から漏れる淡い光に照らされて、一匹の黒猫がその愛らしい姿を現した。
蔵人の全身から、張り詰めていたものが一気に放出されてゆく。
『 猫の影を人の影と見間違うとは……武士の名折れよ 』
蔵人は自嘲気味に笑うと、刀を鞘に収め、再び最上部に向かおうとして、階段のある方へ身体を向け直した。
「 ! 」
その瞬間、蔵人の前で銀色の細い光が宙に振り上がり、そして勢い良く蔵人の胸元めがけて下りてきた。
「ぁ…ぐぅ…ッ」
同時に、蔵人の身体から血渋きが飛び、彼は苦悶の表情を浮かべながら、バタリッと後ろ背に倒れた───。
「 ? …今の音は何じゃ」
最上部に着いた信勝は、ふいに下から聞こえた物音に眉をひそめた。
「音とは、何のことでございましょう?」
「今、下の方で何か物音がしたであろう?」
「はて、某には聞こえませなんだが」
恒興は小首を傾げると
「それよりも信勝様。殿は只今、こちらのお部屋の奥の間にてお休みあそばされておりまする」
話を逸らすように、最北に設けられた一室の前で片膝を折った。
「殿のお休みの妨げにならぬよう、静かにお見舞い下さりませ」
Le 23/07/2024
「左様に褒め殺しにされたのでは、さすがの儂も立つ瀬がないのう」
「殿…」
「さすがは、わざわざ民の扮装までして、儂の行動を監視し続けただけのことはある」
「本当に大変でございました。殿があちらこちらに行かれるので、私など付いて行くだけで──…」
話す濃姫の顔面が、途端に驚きと焦りに満ちた。
信長の口元にも冷笑が広がる。
「…気が付いておられたのですか…!?」植髮
「女共が三人も、木や茂みに隠れてごそごぞ動いておれば、誰でも気付くわ。
あれで隠れた気になっておるのじゃから、ほんにおめでたい者共よ」
「き、気付いておられたのなら、お声をかけて下されば良かったではありませぬか!」
「馬鹿を申すな。美濃の蝮の娘が町民の格好をして、ひぃひぃ言いながら儂の後を追いかけて来るのじゃぞ?
左様に面白い見せ物、最後まで見届けずして如何する」
「何と意地の悪い…っ」
濃姫は朱に染った顔を、ぷいっと背けた。
我ながら上手く身を隠せていたと自信満々であったのに、とっくに気付かれていたとは…。
姫は恥ずかしくて、まともに夫の顔が見られなかった。
「そう剥(むく)れるな。儂も楽しませてもろうたし、そなたの熱意も一応は伝わって参ったぞ」
「一応、ですか」
「大いに伝わったと申せば満足なのか?」
「そうではございませぬが…」
濃姫は小さくかぶりを振ると、ふいにハッとなって信長を見やった。
「堤防…。殿が私を堤防へと誘われたのは、そのことをご存じだったからなのですね !?」
「今更気付いたのか──。応よ、遠目からではなく、もっと近いところで儂の働きっぷりを見せてやろうと思うてな。
おかげで儂を知る良い勉強になったであろう?」
「ま、何というお方」
「ははははっ」
一本取ってやったとばかりに愉しげに笑う信長に、濃姫はそれ以上何も言い返せなかった。
思わず悔しさが込み上げてきたが、それでも濃姫の心は、信長に対する感心の方が強かった。
『 やはり殿の方が私などよりも一枚も二枚も上手。……じゃが、そうでなければ面白くない 』
濃姫の目が獲物を狙う隼のように鋭く光った。
「はははっ」と、やや仰け反りながら笑い続ける信長が、ふいに身体を前に起こした時
「……何の真似じゃ?」
信長は笑うのを止め、瞬間的に表情を固くした。
今まさに濃姫が、道三から与えられたあの短刀を鞘から引き抜いて、
冷たく光るその切っ先を、信長の目の前に突き付けているところだった。
濃姫は白く細い腕を必死に伸ばしながら、強い眼光で信長を見据えている。
「初の褥の席で、殿はこうも仰いました。“やり手の蝮殿のこと、大方そちに儂を殺めるよう吹き込んでいるのであろう”と」
「……」
「それに答えを出すのだとしたら、ええ、仰る通りでございます。
これは、その為に父上様から頂戴致した御刀。信長という男が真のうつけであった時は、刺し殺せと」
信長は向けられている短刀をチラと見ると
「…それで、この刀で儂を刺すつもりなのか?」
射抜くような眼で濃姫の真面目顔を見た。
すると姫は和やかな微笑を浮かべて、スッと短刀を握るその手を膝の上へ下ろした。
「いいえ。殿がうつけでないと分かった今、私にはもう、あなた様を殺める理由はありませぬ」
刀を鞘に収めると、濃姫はそれを両の掌の上で固く握り締めた。
「それにこれは、私の守り刀でもあるのです。父上様から頂いた大切な御刀……出来るならば、血で汚(けが)しとうはございませぬ」
そう真摯に語る濃姫を見つめながら
「じゃが、刀という物はすべからく何かを斬るために作られた物じゃ。使わねば意味がなかろう」
宝の持ち腐れだと信長は言った。
「確かにそうやもしれませぬ…。なれど、刀を持つ者によって、その使い道も違(ちご)うてくるのではありませぬか?」
Le 25/06/2024
も近いですし」
「どうか気を悪くなさらないでくださいね」
「もちろんです」
ひゐろは、笑顔を見せた。
小夜は続けた。「立場というものは、変化するものです。かつて仲居として働いていた同僚が八百屋に嫁いだのですが、私がその八百屋に買い物に行けば同僚ではなく客になるでしょう。世の中は往々にしてそういうものですから、今ある立場で物事を考えてはならないのです。もっともひゐろさんは仲居部屋にいるだけで、同僚ではなくお客様ですし」植髮
ひゐろはくすりと笑い、
「……私も接客業をしているので、小夜さんのおっしゃりたいことはよくわかります。社会は立場で繋がっているけれど、いつ状況が変わるやもしれません。どんな方に対しても横柄な態度にならぬよう、私も気をつけなくては」
「本日も、お出かけでしょうか。もしよろしければ、旅館にあるをお貸しいたします」
「……それは、助かります!」
その後、ひゐろは八時頃に旅館で朝食を食べ、九時に借りたを履いて旅館を出た。
京橋では雪で立ち往生する車があり、が後ろから車を押していた。
「エンジンがかからない。とても竹川町の停車場までは、無理ですよ」
という声がした。
その様子を見てひゐろは、“オートガールの仕事は、しばらく休みになるかもしれないな”と思った。ひゐろは今日も、をあたることにした。
向かったのは資産家一覧に掲載されている、実業家・岩田喜八郎の邸宅である。
邸宅は池之端にあり、英国人設計のな建物。岩田喜八郎の祖父が明治の頃に建てており、邸宅は広く知られていた。もちろんひゐろも、彼の邸宅を知っていた。
難点は、にあるひゐろの実家に近いこと。これから一人暮らしをはじめたいひゐろにとってはできるだけ、実家から遠い物件でなくてはと考えていた。
それでも岩田喜八郎であれば、以外にも貸家を持っているのではないかとひゐろは期待した。
ただ今日は雪が積もっていることもあり、京橋から乗った市電は遅延気味であった。またを履いているといえども、着物姿のひゐろは歩くのもで、岩田喜八郎の邸宅に着いた時には、正午前だった。
「ごめんください!どなたかいらっしゃいますか?」
ひゐろは門扉の前から何度か声を上げてみるものの、雪が降っていたということもあり、誰も出てこない。十五分ほど待っていたものの、あまりの寒さに引き上げることにした。
ーーーさて、これからどうするか。久しぶりに珠緒といっしょに食事でもしたいと思ったひゐろは、日本橋の松下屋百貨店へ行くことにした。
日本橋は市電が走っている程度でや車もなく、人もまばらだった。松下屋百貨店も、いつもの賑わいもなかった。
珠緒の働く下足番は地下にあるといえども劇場や寄席同様、清潔で華やかな雰囲気だった。
“やはり百貨店は素敵だな”と、ひゐろは思った。
大柄な男から下駄を受け取り、頭を上げた珠緒がひゐろの存在に気づいた。そして、珠緒は目くばせをした。大柄な男が去っていくと、珠緒がひゐろに声をかけた。
「……ひゐろ!しばらくぶりじゃない!」
「ごめんね。心配をかけて。ところで仕事が終わった後、空いている?」
「いいわよ。久しぶりに、甘味処でも行きましょう。今日はお客様が少ないので、早く上がれそうなの。十五時でいい?」
「もちろん!」
「それじゃ、十五時に百貨店前の甘味処で待っていて」
ひゐろは松下屋百貨店の近くの定食屋で食事をすませ、甘味処で珠緒を待つことにした。
十分もしないうちに、珠緒がやってきた。寒いせいか鼻先が赤い。
「百貨店で働いている珠緒を、初めて見たわ」