「信勝殿が死んだなど、再び謀反を企てたなど───左様なことが信じられるものか!」
報春院は両肩をわなわなと震わせながら、射抜くような鋭い眼光を濃姫の頭上に向けると
「………もしや、そなたが謀ったのではあるまいな?」
「え…」
「そなたが信長殿を言い含め、信勝殿を殺めるように促したのではないか?」
思わぬ発言に、濃姫は狼狽えがちに首を横に振った。https://ventsmagazine.com/2024/07/26/botox-price-guide-how-much-should-you-pay/
「そのようなことは決して──」
「ないとは言わせぬ! 私に、信長殿が大病じゃなどと偽りを申し、信勝殿が見舞いに行くよう説得して欲しいと頼み込んで来たのは、誰あろうそなた様ではないか!?」
「それは、全て殿のご命令に従ごうたまでの事にて…」
「嘘じゃ! 万歩譲って、再度の謀反の件が事実であったとしても、兄である信長殿が、
実弟である信勝殿を、弁明の余地すらも与えずに殺めたなど、まずもって考えられぬ話じゃ!」
「義母上様。しかしながらそれは──」
「黙りゃ!」
姫の反論を封じるように、報春院はキッと相手を睨(ね)め付けた。
「お濃殿、そなた様の腹は読めておる。信勝殿を亡きものにすることで、信長殿、ひいては己の立場を磐石なものにしたかったのであろう!?
内乱により実父殿が討死し、縁戚の明智一族も悉く果てた今、そなた様が身を置き、重きを成せるのはこの織田家の奥をおいて他にはない。
今 信長殿に死なれては剣呑と思うたそなたは、脅威である信勝殿を始末するよう信長殿を説き伏せ、己の権勢を少しでも長ごう保持しようと企んだのであろう!?」
あまりの言いがかりに濃姫は驚きを通り越して唖然となった。
「そ、そのようなこと、あろうはずがございませぬ!
義母上様に偽りを申し上げたことは、まことに申し訳なき限りにございまするが、
私が殿に信勝殿を殺めるよう説いたなど……左様なことは天に誓ってございませぬ!」
「美濃の間者であったそなたの言葉など信じられるものか!」
信勝の死という受け止め切れぬ事実を聞かされ、報春院は完全に錯乱していた。
「あの子を返せ…、信勝殿を返してくりゃれ!!」
報春院は凄まじい勢いで濃姫の前に走り寄ると、その胸ぐらを掴んで、思いっきりに前後に振った。
「ひ、姫様!」
「大方様!おやめ下さいませ!」
控えていた三保野ら侍女たちは慌てて二人の間に割って入り、報春院を引き剥がしにかかった。
「邪魔を致すでないッ!!」
報春院は侍女たちの手を振り払うと、怒りが治まらないのか
「鬼じゃ!そなたは鬼じゃぁ!!!」
纏っていた打掛を素早く脱ぎ、それを濃姫の身体にバンッ!バンッ!と激しく打ち付けた。
「……ッ」
濃姫は為す術なく、片腕で顔の辺りを庇いながら、姑の暴行に堪え続けていた。
「───何とまあ、随分と騒々しゅうございますなぁ」
ふいに座敷の外から、聞き慣れた男の声が響くや否や、報春院はぴたりとその手を止めた。
一同が声の方に目を向けると、白い着流し姿の信長が、座敷のとっつきに昂然と立ち竦んでいた。
「……殿」
濃姫は現れた夫の面差しを静かに認め、三保野ら侍女たちは慌ててその場に平伏してゆく。
信長はそのままスタスタと濃姫の側へ歩み寄ると、その前で腰を屈めて
「濃、大事ないか?」
と、優しく姫の上半身を抱き起こした。
「…はい…、大事ございませぬ」