「止めよ! ───さあ、どうじゃ、真のことを申す気になったか?」
腰元たちの手を休ませ、低く項垂(うなだ)れているお慈に問いかけた。
お慈は痛みからか言葉を発しなかったが、その項垂れた頭を力なく上げると、機械的に左右に振った。
何と、強情な女──。
報春院はきりきりと目頭を吊り上げ
「続けよ!! この者が口を割るまで続けるのじゃ!」
怒りに任せるように、再度笞打ちを命じた。https://networkustad.co.uk/the-best-timing-and-frequency-for-getting-botox/
「──お待ち下さいませ!」
その時、横手に伸びる廊下の奥から、濃姫の凛とした声が響いてきた。
「義母上様、どうか暫し…暫しお待ち下さいませ!」
背後に三保野とお菜津を従えた濃姫が、報春院の居る縁台へと足早に歩み寄って来る。
正室の訪れに、腰元たちは勿論、千代山や側室たちも一斉に平伏の姿勢をとった。
報春院だけはふてぶてしく頭をそびやかしたまま
「わざわざこのような所まで、いったい何用です?」
細い目で嫁の姿を見やった。
「義母上様、お慈殿は仮にも殿のお側女にございます。左様な者に、殿のお許しなく笞を打つなど、
本来ならばあってはならぬこと。かような理不尽な所業は、今すぐお止め下さいませ!」
「何が理不尽なものか! そなた様とて存じておろう?この者に謀反の疑いがあるという話を」
「無論…、よう存じ上げておりまする。なれど、それについてはまだ確かな証拠がございませぬ故」
「何を、証拠ならばあるではないか。 坂殿らが、お慈殿に脅され、美濃への寝返りを迫られたという確かな証拠が」
「左様ではございますが、各々によってお慈殿から聞かされた話も違い、未だ判然とせぬ部分もございます故」
報春院はハンッと鼻で笑った。
「だから何だと言うのじゃ!? 少なくとも、坂殿とお澄殿が、この者から謀反の話を持ちかけられたというのは、
紛れもない事実。この二人の証言だけでも、十分にお慈殿を罪に問い、その身に笞を打つだけの理由があるわ!」
「なれどそれは…」
「そもそも、そなた様が左様な手ぬるい判断ばかりを下しておる故、側室らも不審に思い、わらわに処罰するよう訴えて来たのではないか!」
報春院の少々事実とは異なる話に、側室らは「え…」となる。
しかし状況が状況である為、彼女たちは立場を弁(わきま)えて、口から出かかった反論の言葉をぐっと呑み込んだ。
濃姫は俯き、暫し考え込むと
「分かりました──。ならば私が、お慈殿を裁きまする」
鎌首を上げ、はっきりと姑に宣言した。
「詮議の上、しかとこの者の処分を決めます故、どうかお慈殿をこちらへお引き渡し下さいませ」
「この者の身柄を、そなた様に預けよと申されるのか?」
「はい。私がお慈殿を裁くことが義母上様の、ひいては皆の望みなのでございますれば」
「…じゃがのう…」
もう少しで口を割りそうなお慈を、このまま濃姫に引き渡して良いものかと、報春院は少なからずの躊躇(ためら)いを見せた。
「側室の監督は、殿の正室たる私のお役目にございます。どうか、お慈殿のご処分については、私にお任せ下さいませ」
濃姫が頷くように頭を垂れると
「そうなさっては如何でしょう? 奥には奥の秩序がございます。一介の側女ごときの為に、大方様がお手を汚される必要はないかと」
千代山がさりげなく口添えした。
報春院は数秒の間、悩ましげな表情を浮かべながら黙していたが、その心は既に決まっているようだった。
「──相分かった。なれど、抜かりなく、厳しゅう処罰致すのですぞ」
「分かっておりまする。“ 真の罪人 ” を、しかと断罪致す所存にございます」