お市は躊躇いがちに母の顔を見上げる。
「義母上様、構いませぬか?」
濃姫が訊くと、報春院はふっと肩で息を吐(つ)き、致し方ないという表情をして
「お行儀良く頂戴するのですよ」
と小さくお市に告げた。
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「承知致しました」
姫の背後に三保野と共に控えていたお菜津は「ささ、姫様こちらへ」と、お市を連れて速やかに座敷から出て行った。
二人が去って行くのを見送ると
「それで、いったい何なのです? わざわざ市を遠ざけるとは。子供には聞かせられぬような、何か重用な話でもあるのですか?」
報春院は全てお見通しだと言わんばかりの口調で訊ねた。
「こちらの意を察していただき、まことに有り難う存じまする」
「そなた様が私と二人きりになろうとする時は、何か飛んでもない話を私に聞かせようとする前兆のようなものじゃからな」
「畏れ入り奉ります」
「して、この信長殿の大事の折に、私にいったいどのような報事(しらせごと)があるというのです?」
「……これより義母上様にお聞かせ致すお話は、殿と、そして信勝殿のことにございます」
「信長殿だけでなく、信勝殿も?」
濃姫は深く頷くと
「まことに憚りながら…、信勝殿におかれましては、尾張上四郡の守護代であらせられる岩倉城の信安様と通じて、
殿の直轄領である篠木三郷を奪い取ろうと策略を企て、再び殿に、ご謀反の意を示された由にございます」
平伏の姿勢を取りつつ、一気に申し上げた。
その突然の報告に、報春院は愕然となる。
「あの子が…、信勝殿が再び謀反を……謀反を企てたとな!?」
「左様にございます」
「う、嘘じゃそのようなこと。有り得ぬ……信勝殿に限って、そのようなこと有り得ぬわッ」
「嘘ではございませぬ。謀反の話を信勝殿より伺った柴田殿が、内々に殿へご報告下されたのです」
「し…柴田殿が!?」
「信勝殿が二度と間違いを繰り返されぬよう、あのお方なりに御主君を諌めようとなされたのでございましょう」
「………」
「一度は義母上様のお取り成しによって許された罪なれど、その大恩を忘れ、再び謀反を企てるなど言語道断の所業。
殿は悩みに悩み抜かれた末、とうとう信勝殿を始末なされる旨をご決意なされたのでございます」
その話を聞き、報春院は思わず耳を疑った。
「…始末…。今、始末と申されたか!?」
「はい。殿にとっては、まさに苦渋の決断であったことにございましょう」
「で、では、まさか……信勝殿は…」
「殿は自らを大病と偽って、信勝殿をこの清洲城へ誘(おび)き寄せると、東櫓の天守にて──」
濃姫は思わず言い淀んだが、やがて意を決して
「河尻殿、青具殿に命じられ御成敗あそばされました」
と一息に告げた。
忽(たちま)ち報春院の面差しから血の気が引き、顔面蒼白となる。
一瞬 我を忘れたように茫然としていたが、やおらハッなって双眼を見開くと
「そんな馬鹿な……。信勝殿が、あの子が死んだと、そう申すのか!?」
見咎めるような眼で姫を凝視した。
「…はい」
「再度謀反を企てた咎により、信長殿がその命を奪うたと!?」
「…左様にございます」
濃姫が悲痛な面持ちで頭を垂れると、報春院は怒りの形相で立ち上がった。